ひざの痛みと治療方法 -高位脛骨骨切り術とは-

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お医者さんのコラム

変形性膝関節症の予防と治療

1. 変形性膝関節症とは?

膝関節は大腿骨と脛骨の間の関節と、大腿骨と膝蓋骨の間の関節から構成され、全体が滑膜という膜で包まれています。骨と骨の接触面は、滑らかで弾力性のある関節軟骨で覆われており、この軟骨が、膝の滑らかな運動を可能にし、また衝撃を和らげています。

変形性膝関節症ではこの軟骨が変性(軟化や亀裂)し、すり減るために起こります。すり減った軟骨の砕片は滑膜に取り込まれて″滑膜炎″を起こします。膝に水がたまる(関節水症)ことがありますが、これは炎症を起こした滑膜から多量の関節液が分泌されるために起こります。炎症を起こした滑膜からは、さらに炎症を誘発する種々の化学物質が放出され、軟骨の変性を進行させます。軟骨に変性が進行する一方で、その周辺では骨や軟骨の増殖が起こり、とげ状の骨隆起(骨棘)が形成されていきます。 この骨棘による機械的な剌激も滑膜炎を悪化させる原因になります。こうして悪循環が起こり、病気が進行します。

変形性膝関節症は40歳以上の5人に1人が罹るといわれています。 その原因が膝関節の外傷(骨折、半月板損傷、 靭帯損傷)や種々の疾病である変形性膝関節症は、二次性関節症といいますが、その頻度はそれ程高くはありません。原因が明確でない変形性膝関節症は一次性関節症と呼ばれ、女性に多く、発症率は男性の2~3倍に上ります。その原因は明確ではありませんが、加齢、体重の増加、膝の内反変形(O脚)、力学的負荷の増大(重い荷物を持つ労働など)などが関与することは間違いありません。最近では遺伝が関与していることも明らかになりつつあります。

正常な関節

変形性膝関節症

2. 変形性膝関節症の症状とは?(自分で気付くために)

変形性膝関節症では、次のような特微のある膝の症状が現れます。下記のような悩みを持つ中高年の人は、我慢せずに整形外科へ。もしかすると変形性膝関節症の初期症状かもしれません。

膝が痛い(多くは内側)

「歩き始めに痛い」、「階段の上り下り(特に下り)で痛い」、「長い距離を歩いた後に痛くなるが、休むと消える」など。
運動が制眼される。
「階段の上り下りができない」、「正座ができない」、「しゃがめない」、「胡坐がかけない」、「走れない」、「長時間の立ち仕事ができない」など。

膝に水がたまる

膝が熱を持ち、膝を曲げようとすると、膝に「張り」を感じます。

関節が変形する

変形性膝関節症は生来O脚気味の人に多い病気ですが、進行につれて O脚の程度が進みます。また関節を触ってみると、中にある骨の形が変わったように感じます。

3. 変形性膝関節症の治療とは?

保存療法

変形性膝関節症の治療は、保存療法(手術を行わない治療法)が基本です。 特に初期なら、「生活環境の改善」と「運動療法」だけで十分によくなります。 例えば前者では、「正座をする生活から, 椅手に座る生活へ」、「重い荷物を持つような労働は控える」、「長時間立ち仕事は避け、 頻繁に椅手に腰をおろす工夫をする」など、膝に負担をかけない生活を心がけます。重い体重は,膝への負担となりますので、 正しい食事療法や膝に負担をかけない運動(水泳やサイクリングなど)で肥満を解消してください。後者の「運動療法」では、大腿四頭筋の強化が重要です。「片方の膝を伸ばしたまま踵を10cmほど5秒間持ち上げ、 下ろして2秒休む」という動作を、各下肢について30~50回繰り返します。それを1日3~4回行うようにしてください。 これがたやすくできる人は、足首に1~2Kgのおもりをのせて行うと、より効果が上がります。

肥満の防止、大腿四頭筋 筋力の強化

それらができないほどの痛みがあって病院を受診した場合、医師は「薬物療法(非ステロイド系消炎鎮痛剤内服やヒアルロン酸の関節内注入)」や「装具療法(足底装具や膝装具」を行い、痛みを和らげます。「物理原法(ホットパックや温泉など)」を併用することもあります。 しかし「生活環境の改善」と「運動療法」は基本的にいつも必要です。

手術療法

病状が進行して保存療法では改善しなくなった痛みに対しては、手術療法が行われます。 これには膝の変形を矯正して痛みを解消する「高位脛骨骨切り術」と、この手術ができない程すり減った膝関節に対しての「人工関節置換術」があります。一般的に、どんな手術にも長所と短所があります。例えば、高位脛骨骨切り術は関節内に人工物を入れないので関節が良く動き、術後の労働にも耐えます。最近は新しい手術方法が開発され、術後早期からの歩行も可能になりました。しかし生来の関節を維持する手術である以上、10~20年後に老化が進む可能性は避けられず、また外反変形を嫌う人もいます。一方、破壊された関節表面に人工材料をかぶせて痛みのない関節を再建する人工関節置換術では、歩行開始や社会復帰が早いという利点があります。しかし、関節可動域の低下が起こり、スポーツや労働は制限されます。また10~20年後に新しいものと入れ換える可能性があります。

欠点が全くない手術的治療というものは、この世にはありません。上記の両手術は長い歴史を持ち、その長所に関しては効果の確立された治療法です。膝は生活を楽しむための要です。膝関節痛のために生活の質(QOL)が低下した時に、これらの手術は真剣に考えてみるに値する治療法です。

終わりに

変形性膝開節症は、膝への負担を減らす生活を心がけることで、かなり防ぐことができる病気です。 まずは予防を心がけるようにしましょう。 膝の痛みを感じた時には整形外科で影察を受け、その程度に合わせた適切な治療を始めることが大切です。もし日常生活に支障を来たす程になったら、我慢せずに専門医の治療を受けてください。 症状がかなり進んだ高齢の人でも、適切な手術療法によって膝の痛みがなくなり、旅行にも行けるようになることが期待できます。 老後の生活をよりよいものにするためにも、膝の痛みで困ったときには専門医に相談することをお勧めします。

安田 和則 先生

八木整形外科病院
スポーツ医学・関節鏡センター長

略歴

1976年
北海道大学医学部卒業
1989年
北海道大学医学部附属病院講師
1990年
文部省在外研究員(米国Vermont大学)
1997年
北海道大学医学部教授
2000年
北海道大学大学院医学研究科教授
2009年
北海道大学大学院医学研究科研究科長・医学部長
2013年
国立大学法人北海道大学理事・副学長
2017年
北海道大学名誉教授(先端生命科学研究院招聘教授)
2017年
医療法人知仁会八木整形外科病院名誉院長(スポーツ医学・関節鏡センター長)
~現在に至る