【インタビュー記事】膝専門医に聞いてみた。膝が痛くなったら?

先生のプライベートについて教えていただけますか?

皆さん、こんにちは。JCHO 大阪病院で、スポーツ膝関節外科を担当しております北と申します。本日は、変形性膝関節症の治療についてお話しさせていただきたいと思います。昔からスポーツ全般に関わることが大好きで自分が体を動かすことが非常に好きでした。この年になるとさすがにコンタクトスポーツ(アメリカンフットボール)などの激しいスポーツは難しくなり、サイクリングを楽しんでいます。

膝の構造について教えていただけますか?

膝関節は、大きく分けて大腿骨、脛骨、膝蓋骨の3つの骨で構成されています。大腿骨、膝蓋骨、脛骨はそれぞれ軟骨という非常に滑らかな組織で覆われています。また、脛骨の上には半月板という組織が内側と外側に一つずつあります。さらに、骨同士は靭帯と呼ばれる組織でつながっており、内側の靭帯、外側の靭帯、前の靭帯、後ろの靭帯の、4 つの靭帯でつながっています。

どのような症状があるときに受診した方が良いですか?

それぞれの軟骨や半月板が傷んできたり、靭帯を損傷した場合には、膝に痛みが出てきたり腫れたりすることがあります。それらの症状が出た場合は、ご自身のお近くの医療機関を受診することをお勧めします。実際に医療機関を受診された際には、まずレントゲンを撮ることが多いと思いますが、初期の状態の細かな軟骨損傷や半月板損傷、靭帯損傷はレントゲンには映りませんので、ぜひMRI を撮影されることをお勧めいたします。関節内の骨の表面というのは、軟骨というツルツルした組織で覆われています。若い時の軟骨は、ほぼ摩擦がないようにできていますが、年齢とともに水分などが失われて傷つきやすくなってきます。一度、軟骨や半月板が傷ついてしまうと、もともと摩擦がほぼゼロの状態で可動していたところに摩擦が発生してきます。すると徐々に軟骨や半月板が削れていき、最終的に変形性膝関節症を発症することになります。

変形性膝関節症の主な原因について教えていただけますか?

主な原因は加齢になります。他にも体重が重くて過負荷であったり、半月板や靭帯の損傷、また怪我が原因で発症することもあります。

変形性膝関節症を治すことは可能でしょうか?

変形性膝関節症は、一度発症するとその進行を遅らせることはできますが、根本的に治癒することは現在の医療ではまだ不可能です。初期には痛み止めや湿布、ヒアルロン酸などで対応できますが、徐々に進行していきます。進行を遅らせる唯一の有意差のあるデータは体重を減らすことです。体重を減らすことによって、膝への負荷を和らげ、進行を遅らせることができるとわかっております。また筋力トレーニングもある一定の効果があると言われており、すり減った軟骨そのものを回復させることはできませんが、筋力トレーニングによって痛みを軽減する効果があることがわかっています。それでも、どうしても痛みが取れない場合や、歩行が困難である場合には手術を検討します。

変形性膝関節症の病態について教えていただけますか?

基本的に、人間は生まれながらにして、少しO脚の脚を持っています。膝の内側に体重がかかりやすく、膝の内側の軟骨や半月板に 割ほどの負荷がかかると言われております。そのため膝の内側の軟骨や半月板は傷んでいるが、膝の外側は健康な状態に保たれている患者さんが多いです。膝の内側の傷んでしまった軟骨に体重がかかるため痛みが出ているので、まだ健康的な膝の外側の軟骨に体重がかかるように脚の骨を矯正するというのが、骨切り術という手術になります。「骨切り術」と聞くと、多くの患者さんが 「非常に怖い」 とおっしゃられます。元の英語はOsteotomy  (オステオトミー)。そのまま和訳すると骨切り術になりますが、実際には骨切り術という名前よりは、脚のO脚を「矯正する手術」だと思ってもらえれば良いかと思います。

変形性膝関節症の手術について教えていただけますか?

変形性膝関節症の手術治療は、主に 3 つに分けられます。一つ目は、関節鏡視下手術になります。二つ目は先述の骨切り術です。そして三つ目は、人工関節置換術と言いまして、膝そのものを金属製の人工関節に置き換える手術です。患者さんの状態によって、この手術の適応というのが大雑把ですが決まってきます。半月板だけが傷んでいる場合には、関節鏡視下手術が適応されます。また、半月板だけでなく軟骨も傷んでいる場合には、骨切り術や人工関節置換術が適応されます。骨切り術については、比較的若年の方に適応することが多く、年配の方になってきますと人工関節が適応されることが多くなります。いずれの治療におきましても、私ども膝関節外科医の考え方としましては、正直なところを申しますと若い 20 歳の状態の関節に戻すことは不可能です。その為我々は健康な膝の寿命をできるだけ伸ばすことを目標にしています。

骨切り術について教えていただけますか?

3 つの治療法の中でも近年徐々に症例数が多くなっている骨切り術というのは、実は約 60 年前からある手術になります。インプラントの精度があまり良くなかったり、手技が煩雑だった為、中々広まってきませんでした。しかし、近年、インプラントや手術手技が改良されてきたことにより、ここ10年ほどで日本全国で非常に増えている手術です。特に私が研修医だった20 年前は、40 代、50 代の比較的若年の方の変形性膝関節症の患者さんは、外来で診察させていただいても、「どんなに痛くても65 歳までは、痛み止めと湿布で頑張りましょう」というお話ししかできないのが現状でした。それが最近になって骨切り術の発展に伴い、40 代、50 代の変形性膝関節症の患者さんを手術的に治療できることが可能になってきました。

骨切り術の利点について教えていただけますか?

骨切り術の利点はご自身の関節で荷重ができるため、非常に自然な膝の動きをすることが可能になる点です。少し X 脚にはなりますが、ほとんどの患者さんは、以前から取り組まれていたスポーツや、重労働を含むお仕事など、元の生活に戻られています。また膝の可動域が保たれるということも、骨切り術の利点のひとつです。可動域というのは膝を伸ばしたり曲げたりすることですが、基本的に手術前の可動域が手術後も保たれています。ただ一つ注意していただきたいのは、手術前に正座ができていなかった方が、手術後に正座ができるようにはなりません。しかしながら、努力次第では正座が可能になられる方もおられます。人工関節の場合は、その形状の特性上、必ず膝の可動域が限られてきます。

骨切り術の欠点について教えていただけますか?

骨切り術の欠点は、手術後のリハビリ期間が長いことです。骨をいわゆる骨折させて矯正し、それを再びくっつける手術ですので、ある程度骨がくっつくまでは痛みを感じることがあり、重労働などに従事するのは少し難しくなります。

重労働やスポーツへの復帰は可能ですか?

患者さんご自身にもよりますが、早い方で 2 ヶ月、遅い方で半年ほどで元の生活に戻ることが可能です。骨切り術は、ご自身の膝関節で荷重することができるため重労働やスポーツに復帰することが可能です。ただし、きちんと筋力トレーニングをしていただく必要があります。実際の患者さんの中には、もともとフルマラソンやラグビーをしていて膝を痛めた方が、骨切り術を受けた後に復帰されたケースも御座います。私の患者さんには、山の中を走り回るトレイルランニングの様なスポーツをされている方々もいらっしゃいます。

入院期間はどのくらいですか?

骨切り術の入院期間は、患者さんにもよりますが、早い方で週間程度、やや遅い方で週間程度になります。手術方法にもよりますが、術後2週間後から全体重をかけて歩行できる術式と、術後 週間程度で全体重をかけられる術式の つがあります。いずれの手術にしましても、おおよそヶ月ぐらい経ちますと、小走りをしたり重いものを持つことが可能になり、半年ぐらい経つとすべての活動を許可しております

骨切り術の種類について教えていただけますか?

最も多く行われているすねの骨で矯正する、骨切り術についてお話しさせていただきたいと思います。すねの骨の矯正術は、内側開大式高位脛骨骨切り術、外側閉鎖式高位脛骨骨切り術に分けられます。内側開大式というのは、ひざの内側から骨に切れ込みを入れます。切れ込みを入れたところを開くことによって、すねの骨を少し外側に矯正する手術になります。それから外側閉鎖式というのは、すねの骨の外側をウェッジ状に切れ込みを入れる手技です。ウェッジ部の骨を完全に抜き取ることによって空洞を作ります。空洞を作った面同士をあわせることによって、膝を外側に矯正する手術です。

最後に、膝が痛い患者さんへメッセージをお願いします。

いろいろな患者さんを診させていただいていると、やはり、かなり進行してしまった変形性膝関節症の患者さんよりも、初期の段階の変形性膝関節症の患者さんのほうが、手術後の活動性が高く、手術の満足度も非常に高いと感じています。手術をするなら、早ければ早いほうが良いと私たちは考えています。もし膝に痛みを感じたり、水が溜まったりした場合には、早めにお近くの医療機関を受診されることをおすすめします。

 

こちらのインタビューはビデオで視聴することができます!

医師情報

  • JCHO 大阪病院
  • スポーツ医学科診療部長

北 圭介 先生

近畿

膝関節の知識

手術

適応

アクティビティ

略歴

2000年~

大阪大学医学部医学科卒業

2000年~

大阪大学医学部付属病院 整形外科 研修医

2008年~

大阪大学大学院医学系研究科 博士課程修了

2008年~

八尾市立病院 整形外科 副医長

2010年~

大阪大学大学院 整形外科 特任助教

2012年~

大阪労災病院スポーツ整形外科 医長

2015年~

大阪労災病院スポーツ整形外科 副部長

2017年~

JCHO大阪病院 整形外科 医長

2020年~

JCHO大阪病院 整形外科部長(スポーツ医学担当)

2023年~

JCHO 大阪病院 スポーツ医学科 診療部長

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