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膝の病気と治療方法
膝の痛みの主な原因は2つ、
原因を理解して適切な治療を受けましょう。
高位脛骨骨切り術
(HTO手術)とは
高位脛骨骨切り術(HTO)の内容、実際に受ける際の流れについてご説明します。
患者さんの声
実際に手術を受けた方の
インタビューです
お医者さんのコラム
高位脛骨骨切り術(HTO)の内容、実際に
受ける際の流れについてご説明します。
健康寿命の延伸と変形性膝関節治療における骨切り術
変形性膝関節症と健康寿命現代は超高齢化社会で、ここ数十年で平均寿命が大きく増加しています。一方健康寿命という言葉を最近よく耳にするかと思います。健康寿命は病院にかからず健康な生活が行えるまでの寿命で、実際には平均寿命に対して約10年短いのです。これは亡くなる前の10年は何らかの病気を抱えて不健康な余生を送っていることを意味します。健康寿命に影響する病気には色々ありますがその一つに変形性膝関節症という病気があります。変形性膝関節症は中高年者に多い膝関節の病気で、高齢化社会に伴い年々増加し、潜在的には3000万人程度の患者さんがいると言われています。50代くらいに膝の痛みで発症し、徐々に悪化し立ち上がりや歩行などの日常生活に支障をきたしてしまいます。膝関節症は生活習慣病?それではなぜ膝が悪くなってしまうのでしょうか?その理由はたくさんありますが①加齢による半月板や軟骨の劣化②肥満③筋力低下(運動不足)などが病気の発症や進行と関連することが知られています。これってどこかで聞いた事がありませんか?そうです、様々な生活習慣病の前段階として有名なメタボリック・シンドロームです。メタボリックシンドロームの方には変形性膝関節症が多いという研究結果も存在します。こう考えると変形性膝関節症も生活習慣病の一つと考えてもいいでしょう。なので、現代人特有の生活習慣の改善が変形性膝関節症の予防や治療となりうる事がお分かりになるかと思います。変形性膝関節症の現在の治療皆さん立ったり歩いたりして膝を使って生活していますので、一度変形性膝関節症になってしまうと残念ながら後は進行する一方です。根本的に病気を治したり予防する薬や注射はありません。50-60代で発症して、病気が進行して痛みに耐えられなくなった70-80代で人工の部品をいれる手術(人工膝関節)を受けられる方が殆どです。ただ最近ではもう一つの選択肢として骨切り術が注目を浴びています。これは人工関節に比べて自分の膝を残せるので手術後に曲がりが悪くならない、膝を使う仕事やスポーツを継続できる等の多くのメリットを有しています。ただ残念ながら病気が進みすぎた方だと思うような効果が得られなかったり、持続しなかったりします。わかりやすく言うと“旬”のある治療なのです。骨切り術の進歩骨切り術は昔からある手術方法で最近開発された訳ではありませんが、ここ10年でこの手術を受けられる方が増えています。この理由としていくつかのことが考えられます。一つは新しい骨切り術が開発された(ている)事、また、切った所を固定する新たな材料や素材(人工骨)が開発された事があるでしょう。この改良で以前よりも手術後に早く歩けたり、社会復帰する事が可能になったのです。また、人工関節を受けた方の中に違和感が残ったり膝が曲がりにくくなったり調子が今一つの方が一定数いらっしゃる事もあり、人工関節にはしたくないと希望する方が増えている事も理由かもしれません。そして、一番大きな理由は実際にこの骨切り手術を受けて“良かった”と感じられた方がどんどん増えてきていることかと思います。膝周囲骨切り術の保険収載数 膝サプリメントと再生医療薬局で多くの膝や腰の痛みに効くと言う効能で多くのサプリメントが販売されています。薬剤によって成分は異なりますが基本軟骨に含まれる一成分を配合した薬剤です。以前サプリメントに有効性があるとの報告もありましたが、さまざまな研究からその効果は否定的であることが知られています。また、最近では、再生医療といって自分の血液の成分を濃縮して膝に注射する治療(多血小板血漿療法:PRP療法)が注目を浴びています。これは人によっては一定期間膝関節の痛みを抑えられることが知られています。しかし、どの程度の病期の人に効果があるのか、どのくらいの効果があるのか、その持続期間はどのくらいかははっきりとわかっていません。また再生医療という名前はついていますが、軟骨や半月板など膝関節症の発症や進行に重要な組織がこの治療によって修復・再生されることは証明されていません。これらの治療に共通しているのは、保険が効かず高額ですが誰でも受ける事が出来ること、そして受け身の治療であると言うことでしょう。 超高齢化社会を迎えるにあたって平均寿命は劇的に伸びていますが、健康寿命が改善したというデータは残念ながら見当たりません。私も診療の中で“”頭はしっかりしているが、足腰痛くて動けない“健康寿命を迎えた高齢の方々が、どんどん増えてきている事を実感しています。これは高血圧や糖尿病などの成人病に対する薬物治療が大きく進歩しているにもかかわらず、筋力や体力をつけたりする、いわゆる”動くための薬“が開発されていない事が理由の一つとして考えられると思います。この傾向は今後も続くでしょう。この事は患者さんが主体的に生活習慣を変えて体のお手入れをしていかないと、年齢と共に動けない体(寝たきり)が出来上がってしまうことを意味しています。もちろんサプリメントや再生医療も、この迫り来る運動機能の低下に対しての治療・予防にはなり得ません。 健康寿命の延伸と骨切り術私自身健康寿命を伸ばすために重要なのは、患者さんの“意識の変化”だと思っています。より良い老後を送るためには医者任せにするのではなく、若いうちから自分で体のお手入れ(食事の改善・減量・禁煙・運動習慣等々)をする様に意識を変える必要があると思います。そして骨切り手術の対象となるのは、ちょうどこういった“意識の変化”が必要な年代の方々なのです。私は骨切り術をされる方には、“手術をするだけではダメです。きちんと終わった後に今までの習慣を改めましょう”という話を必ずします。そして、手術をきっかけに禁煙されたり、新しい運動を始めたり、減量に成功された方もいます。これらの方に共通するのは手術後に膝の痛みが取れただけでなく、色々な形で生活が豊かになり、より高い満足感が得られているということです。良いタイミングで治療を受けて、そして自分自身が変わることでより良い結果が得られるのです。残念ながら人工関節・サプリメントや再生医療を受けた方でこの様な結果を得られる事はあまりありません。そういう意味で骨切り術は自分を変えるきっかけになる素晴らしい治療法であり、長い目で見れば健康寿命を伸ばす上で重要な事だと私は感じています。 最後に手術を受けるのは皆さん嫌なことではありますが、自分を大きく変える一つのきっかけになり得るということは知っておいても良いと思います。そして同じ治療を受けるにしてもそのタイミングは非常に重要です。ぜひより良い老後を送るために膝の関節痛で悩んでいらっしゃる方はこの治療を検討されることをお勧めします。
- 信州大学
- 運動機能学教室 准教授
天正 恵治 先生
スポーツ復帰を目指した 膝周囲骨切り術
1. 今や『国民病』とも言える変形性膝関節症加速する高齢化社会の中で、健康寿命の延伸が日本の重要な課題となりました。つまり、平均寿命が世界トップレベルに伸びたのとは裏腹に、元気に自分の脚で歩くことのできる健康寿命は平均寿命よりも10年短いのです。その問題解決の鍵を握るのが、患者総数2,500万人以上と言われる変形性膝関節症の治療です。2. 大きく変わりつつある変形性膝関節症の治療戦略従来は痛みと変形が出たら関節注射に通い、それでも痛くて歩けないくらいに進行したら人工の関節に取り換える、というのが一般的でした(図1)。膝の関節だけがロボットのような部品で置き換わるようなイメージでしょうか。もちろん人工膝関節置換術は確立した手術で、国内だけで年間およそ10万件も行われており、非常に安定した治療です。しかし人工関節の膝は、部品が壊れないように大切に使わなければなりません。「跳んだり走ったり」というわけにはいきません。図1 人工膝関節全置換術膝のいたんだ部分をすべて切り取り、金属製の関節をかぶせます。金属同士がぶつからないように、間にはポリエチレンをはさみます。これに対して膝周囲骨切り術は文字通り膝周囲の骨を少し切ることで脚のならびを変えて、膝のいたんだ部分に負担のかからない脚に作り替える手術です(図2)。例えば日本人に多いO脚変形では膝の内側がすり減るため、これを少しX脚に作りかえ、軟骨が保たれている外側に体重がかかるようにします(図3, 図4)。関節を取り替えない『関節温存術』ですから、「跳んだり走ったり」は制限なく行えます。図2 膝周囲骨切り術の一例(開大式楔状高位脛骨骨切り術)脛骨(すねの骨)を高い位置(膝の近く)で切って開いて角度を変え、楔(くさび)状に開いた部分に人工の骨をはさんで安定化させた後、プレートで固定します。 図3 57歳の女性登山とロードバイクへの復帰を目指して開大式楔状高位脛骨骨切り術を行い、術後1年で完全復帰した。a) 術前の下肢全長レントゲン写真。軽度のO脚に伴う変形性膝関節症である。b) 術後2年、固定用のプレートを抜去した後の下肢全長レントゲン写真。ややX脚に矯正を行った。 かつて骨切り術は日本のお家芸と言われた手術ですが、既存のプレートでは骨を切った部分の固定性が不十分で、なかなか切った骨がくっつかなかったり、せっかく矯正した角度が元に戻ってしまったり、という問題がありました。これらの問題のために、骨切り術は一時期ほとんど行われなくなり、絶滅危惧種の手術と呼ばれるようになりました。しかし近年、骨切り術専用の強いプレートや人工骨が開発され、これが急速に普及してきました。専用プレートと専用人工骨のおかげで術後のリハビリも早まり、最終的なゴールとしてスポーツ復帰も可能となったのです。つまり固定材料の進化によって『骨切り革命』が起こり、骨切り術が『古典的な手術』から『最先端の手術』へと生まれ変わったのです。3. 骨切り術後のスポーツ復帰骨切り術が普及したもう一つの背景には、患者側の生涯スポーツの普及があります。健康寿命延伸がささやかれる中、中高年層の運動に対する意識が高まり、健康増進のためにスポーツジムに通う人も増えてきました。また、還暦を過ぎても登山やスキー、テニスなどのスポーツを続ける人も増えてきました。これまでは、膝の変形が進んで痛みが出れば、やりたいスポーツを「あきらめる」ことが「治療」のメインでした。しかし、上述の『骨切り革命』によって、「あきらめない」「治療」が可能となったのです。つまり、これまではゴールを下げることで痛みのない生活を送ることに主眼が置かれていましたが、『骨切り革命』によって、高いゴールに到達するために手術をする、という選択肢が生まれたのです。私自身、この新しい骨切り術を1,000件以上執刀してきましたが、最初のうちは手術の効果がどれほどのものか実感がわかなかったため、「スポーツに復帰してもらおう!」という強い気持ちがあったわけではありません。ところが、手術を受けた患者様たちから、「3,000mの山に登ってきたよ。」「スキー、滑って来たわ。」「テニスの大会出たよ。」と次から次へと報告を受けるうちに、骨切り術はスポーツ復帰が叶う手術なのだ、と教えられたのです。私の骨切り術がここまで増加したのには、当院の地域的な背景もあるかもしれません。以前は石川県の病院に、現在は福井県の病院に勤務しておりますが、いずれも近くに日本三名山に数えられる白山があり、登山愛好者が数多くいます。スキー愛好者もたくさんいます。加賀温泉郷や芦原温泉を中心とする温泉街が周囲にあるため、正座が必須の中居さんが数多くいます。各温泉街には隣接したゴルフ場もあり、芝の中を走らなければいけないキャディーさんが数多くいます。術後それぞれの目標に復帰を果たして満足した患者様が、友人や近所の人に骨切り術を勧めて連れて来ることで、年々骨切り術が増えた結果が現在の数字です。スポーツを「あきらめない」「治療」が地域に根ざして来た、と言えるでしょう。4. スポーツのための骨切り術この流れに乗って、骨切り術をはじめた当初には全く予想していない事態が展開されてきました。例えば、「膝が痛くて歩けないから人工関節をしてほしい」、あるいはサッカーの選手が膝の靭帯を切ったために「サッカー復帰のために靭帯を再建してほしい」という手術の希望は一般的です。ところが、日常生活では全く痛みがなく、何の不都合も感じていない中高年の患者様が「山に登りたいから膝の骨切りをしてほしい」、と来院するようになったのです(図4)。この場合、スポーツ復帰が叶わずに術後の痛みが出た場合には、患者様は何も得ることなく、失うものしかありません。ですから患者本人のみならず、手術をする医者側にも非常に勇気がいる状況となります。それを承知で皆様の願いを叶えるべく、「スポーツ復帰のみを目的とした骨切り術」を行うようになりました。 図4 67歳の女性登山の復帰を目指してダブル・レベル(大腿骨と脛骨の二つのレベル)の骨切り術を行い、術後1年で3,000m級の山々への登山も可能となった。a) 術前の下肢全長レントゲン写真。高度のO脚に伴う変形性膝関節症である。b) 術後3カ月、固定用のプレートを抜去する前の下肢全長レントゲン写真。ややX脚に矯正を行った。これまでにスポーツ復帰のみを目的とした骨切り術を施行した患者様が30名以上おられますが、その復帰率は90%を超えています。フルマラソン選手において、筋疲労の蓄積した後半に痛みが出るために完全復帰が難しい傾向がありますが、完全復帰された方の復帰までの期間は1年~1年半です。いったん関節を取り換えてしまうと、元に戻すことはできません。「あと10年、あと5年でいいから、痛みなく自分の膝でやりたいことをやりたい!」と訴える患者様の声に耳を傾け、充実した時間を提供することが、われわれ関節温存外科医の大きな使命かもしれません。参考文献High tibial osteotomy solely for the purpose of return to lifelong sporting activities among elderly patients: A case series study Asia-Pacific Journal of Sports Medicine, Arthroscopy, Rehabilitation and Technology 19 (2020) 17-21※ 回復の進み具合、回復の程度には個人差があります。
- 春江病院 整形外科 関節温存・スポーツ整形
- 外科センター センター長
中村 立一 先生
軟骨がすり減ってしまう前に骨切り術 ~一生自分のひざで歩くために~
1.無くなった軟骨は帰ってこない関節が滑らかに動き、衝撃を吸収するためには軟骨が大切です。この軟骨は、ひとたび傷つくと元通りには再生しません。膝の軟骨がすり減って、歩いたり階段の昇り降りしたりするときに痛みがでてくる病気が変形性膝関節症です。軟骨のすり減るスピードは、次に説明するいくつかの要因によって、ひとそれぞれです。しかし、中には半年~1年の間にみるみるすり減っていく人もいます。痛み止めをのめば、まだ歩けるから大丈夫と言っているうちに軟骨が無くなってしまう人もいます。無くなった軟骨は帰ってきません。グルコサミン、ヒアルロン酸、コンドロイチンなどのサプリメントを飲んでも、いわゆる再生医療をやっても、失った軟骨は元通りにはならないのです。2. 半月板は軟骨の守護神それでは、どんな場合に軟骨が傷んでいくのでしょうか。もちろん、転んでガツンと膝をぶつけても軟骨は傷つきます。しかし、そのようなケガをしてなくても軟骨が傷んでいく人がいます。そのような人の中に、半月板が原因のことがあります。半月板は、膝関節の内側と外側にそれぞれ1つずつあり、三日月型をして関節の縁を、ちょうど相撲の土俵のように取り囲んでいます。すねの骨(脛骨)の関節面は平らで、そこに丸い太ももの骨(大腿骨)の関節面が乗っかっているので、それを周りから包み込むようにして、支えているのが半月板です。大腿骨が関節の中で横ブレしないようにも役立っています。ところが、半月板も年齢とともに弱くなってきます。生まれてからずっと長いこと関節の横ブレを支えながら軟骨を守り続けてきた半月板も、いつかちょっとした動きで「もうダメ」と、バツンと切れてしまうことがあります。転んだりしなくても、例えば、電車に遅れそうでちょっと駆け足をしたとき、階段を不意に下りるとき、ズキッと膝に痛みがはしり、それからどうも調子が悪くなったという話をよく聞きます。そういう人の膝をMRIでみてみると、半月板に傷が入っていることがあります。いままで大腿骨の関節軟骨をやさしく、そして力強くささえていた半月板が割れてしまうと、関節内の横ブレが生じ、関節軟骨に強い力がかかり出すことで、軟骨のすり減りが始まります。しかし、それでも人によって軟骨のすり減り方にスピードの違いがあります。半月板が割れても、そのうち痛みがとれて何年たっても大丈夫な人と、1年もたない人がいます。その違いは何なのでしょうか。3. 骨のかたちが運軟骨が早くすり減る人とすり減らない人との「差」は何なのか。これまで多くの研究がなされてきました。例えば、何百人もの人の膝のレントゲンとMRIを撮って、何年か後にもう一度調べてみる。すり減った人とすり減らなかった人との違いを見つける。そういう研究です。ある研究によると、前述の半月板損傷の有無に加えて、脛骨の関節面が内側に傾いていると、軟骨のすり減りが早いということが分かりました1)。新潟県のある町の住民を20年間追いかけて調べた研究でも同じ様に脛骨の関節面の傾きが軟骨のすり減りに関係していました2)。そのような骨の形をしている人はO脚になっていることも多いです。1) Palmer JS, et al. KSSTA 20202) Higano Y, J Orthop Sci 2016関節面の傾きを示したレントゲン脛骨の骨軸に対する関節面の傾きを黄色で示しています。左の人は大きく傾いていますが、右の人は正常範囲です。O脚の人のレントゲンと写真黄色の線は、股関節と足首の真ん中を結んだ線で、歩行時に片脚で立ったときの荷重線になります。体重が膝の内側に偏ってかかることになります。つまり、脛骨の関節面が内側に傾きすぎており、O脚である人は、歩く時つねに大腿骨の関節が内側にずれようとする力が働いており、内側の半月板がずっとそれを支えてくれていたのが、あるときブチッと半月板が切れ、内側の支えを失った大腿骨の横ブレがひどくなり、みるみるうちに内側の軟骨がすり減ってしまうのです。 4. 骨切り術は、傾きすぎた関節面をなおす手術高位脛骨骨切り術は、この内側に傾きすぎている関節面を水平にもどす手術です。内側の半月板の支えを失って、大腿骨が内側にずれようとする動きを減らし、内側の関節軟骨への負担を減らすことで、軟骨のすり減りをくいとめます。横ブレの力が減って傷んだ半月板をグイグイ押す力も減るので、膝の痛みが軽くなります。軟骨がこれ以上すり減るのを食い止めるためにも理にかなった手術です。薬や注射にはその力はありません。関節面が内側に傾いた人(左)に対する高位脛骨骨切り術後(右)のレントゲン関節面の傾き(黄色線)が正常になっています。5. 骨切り術は、軟骨が無くなる前にした方が治療成績がよいレントゲンで関節の隙間がなくなったら手遅れかといえば、そんなことはありません。内側の軟骨がすり減ってしまっていても、骨切り術を行うことで、痛みは軽くなり、スポーツもできるくらいに回復する人はたくさんいます。そのため、もしもあなたのレントゲンで隙間がなくなっていてもあきらめることはありません。あまり変形が強いと人工関節の方が、治療成績が優れていることもありますが、専門医がちゃんと調べると骨切り術がよいかもしれません。軟骨がすり減った人に行った骨切り術術後も内側の隙間(黄色矢印)は狭いままですが、二人とも痛みがなくなり、とても喜んでいます。ただ、骨切り術の治療成績を10年、20年と長い年月で比べると、もともと軟骨が残っていたうちに手術を受けた人と、すり減ってしまってから手術を受けた人とでは、差が出てきます。私達の研究では、軟骨が残っていた人は骨切り術の後15年たっても一人も再手術を受けていませんでしたが、骨切り術の時に軟骨が無くなっていた人は、15年たつと半分の人がその後に人工関節置換術を受けていました。もしもあなたが60歳台であるならば、90歳になっても自分の膝で元気にあるいていくためには、軟骨がすり減ってしまう前に骨切り術を受けた方がいいかもしれません。6. O脚で、内側が痛いなら、軟骨が無くなってしまう前にO脚の人がみな手術する必要はありません。痛みがなく、軟骨も半月板も大丈夫なら心配ありません。しかし、歩くと膝の内側が痛くなり、MRIで調べたら半月板や軟骨に傷があり、レントゲン撮ってみると関節面が強く内側に傾いた形をしていたら、痛み止めで我慢して軟骨がすり減っていくのを待つよりも、早いうちに骨の形を整えてあげる手術を受けた方が良いかもしれません。もちろん、手術の適否については、それだけで決まるわけではなく、病状と軟骨のすり減り、そして手術の必要性については専門医の診断が大切ですが、もしもその必要性があるならば、軟骨が無くなってしまう前がよいでしょう。失った軟骨は帰ってこないので。
- 東京女子医科大学
- 整形外科 教授・講座主任
岡崎 賢 先生 先生
変形性膝関節症の予防と治療
1.変形性膝関節症とは?膝関節は大腿骨と脛骨の間の関節と、大腿骨と膝蓋骨の間の関節から構成され、全体が滑膜という膜で包まれています。骨と骨の接触面は、滑らかで弾力性のある関節軟骨で覆われており、この軟骨が、膝の滑らかな運動を可能にし、また衝撃を和らげています。 変形性膝関節症ではこの軟骨が変性(軟化や亀裂)し、すり減るために起こります。すり減った軟骨の砕片は滑膜に取り込まれて″滑膜炎″を起こします。膝に水がたまる(関節水症)ことがありますが、これは炎症を起こした滑膜から多量の関節液が分泌されるために起こります。炎症を起こした滑膜からは、さらに炎症を誘発する種々の化学物質が放出され、軟骨の変性を進行させます。軟骨に変性が進行する一方で、その周辺では骨や軟骨の増殖が起こり、とげ状の骨隆起(骨棘)が形成されていきます。 この骨棘による機械的な剌激も滑膜炎を悪化させる原因になります。こうして悪循環が起こり、病気が進行します。 変形性膝関節症は40歳以上の5人に1人が罹るといわれています。 その原因が膝関節の外傷(骨折、半月板損傷、 靭帯損傷)や種々の疾病である変形性膝関節症は、二次性関節症といいますが、その頻度はそれ程高くはありません。原因が明確でない変形性膝関節症は一次性関節症と呼ばれ、女性に多く、発症率は男性の2~3倍に上ります。その原因は明確ではありませんが、加齢、体重の増加、膝の内反変形(O脚)、力学的負荷の増大(重い荷物を持つ労働など)などが関与することは間違いありません。最近では遺伝が関与していることも明らかになりつつあります。正常な関節 変形性膝関節症 2. 変形性膝関節症の症状とは?(自分で気付くために)変形性膝関節症では、次のような特微のある膝の症状が現れます。下記のような悩みを持つ中高年の人は、我慢せずに整形外科へ。もしかすると変形性膝関節症の初期症状かもしれません。 膝が痛い(多くは内側)「歩き始めに痛い」、「階段の上り下り(特に下り)で痛い」、「長い距離を歩いた後に痛くなるが、休むと消える」など。運動が制眼される。「階段の上り下りができない」、「正座ができない」、「しゃがめない」、「胡坐がかけない」、「走れない」、「長時間の立ち仕事ができない」など。 膝に水がたまる膝が熱を持ち、膝を曲げようとすると、膝に「張り」を感じます。 関節が変形する変形性膝関節症は生来O脚気味の人に多い病気ですが、進行につれて O脚の程度が進みます。また関節を触ってみると、中にある骨の形が変わったように感じます。 3. 変形性膝関節症の治療とは?保存療法変形性膝関節症の治療は、保存療法(手術を行わない治療法)が基本です。 特に初期なら、「生活環境の改善」と「運動療法」だけで十分によくなります。 例えば前者では、「正座をする生活から, 椅手に座る生活へ」、「重い荷物を持つような労働は控える」、「長時間立ち仕事は避け、 頻繁に椅手に腰をおろす工夫をする」など、膝に負担をかけない生活を心がけます。重い体重は,膝への負担となりますので、 正しい食事療法や膝に負担をかけない運動(水泳やサイクリングなど)で肥満を解消してください。後者の「運動療法」では、大腿四頭筋の強化が重要です。「片方の膝を伸ばしたまま踵を10cmほど5秒間持ち上げ、 下ろして2秒休む」という動作を、各下肢について30~50回繰り返します。それを1日3~4回行うようにしてください。 これがたやすくできる人は、足首に1~2Kgのおもりをのせて行うと、より効果が上がります。それらができないほどの痛みがあって病院を受診した場合、医師は「薬物療法(非ステロイド系消炎鎮痛剤内服やヒアルロン酸の関節内注入)」や「装具療法(足底装具や膝装具」を行い、痛みを和らげます。「物理原法(ホットパックや温泉など)」を併用することもあります。 しかし「生活環境の改善」と「運動療法」は基本的にいつも必要です。 手術療法病状が進行して保存療法では改善しなくなった痛みに対しては、手術療法が行われます。 これには膝の変形を矯正して痛みを解消する「高位脛骨骨切り術」と、この手術ができない程すり減った膝関節に対しての「人工関節置換術」があります。一般的に、どんな手術にも長所と短所があります。例えば、高位脛骨骨切り術は関節内に人工物を入れないので関節が良く動き、術後の労働にも耐えます。最近は新しい手術方法が開発され、術後早期からの歩行も可能になりました。しかし生来の関節を維持する手術である以上、10~20年後に老化が進む可能性は避けられず、また外反変形を嫌う人もいます。一方、破壊された関節表面に人工材料をかぶせて痛みのない関節を再建する人工関節置換術では、歩行開始や社会復帰が早いという利点があります。しかし、関節可動域の低下が起こり、スポーツや労働は制限されます。また10~20年後に新しいものと入れ換える可能性があります。 欠点が全くない手術的治療というものは、この世にはありません。上記の両手術は長い歴史を持ち、その長所に関しては効果の確立された治療法です。膝は生活を楽しむための要です。膝関節痛のために生活の質(QOL)が低下した時に、これらの手術は真剣に考えてみるに値する治療法です。 終わりに変形性膝開節症は、膝への負担を減らす生活を心がけることで、かなり防ぐことができる病気です。 まずは予防を心がけるようにしましょう。 膝の痛みを感じた時には整形外科で影察を受け、その程度に合わせた適切な治療を始めることが大切です。もし日常生活に支障を来たす程になったら、我慢せずに専門医の治療を受けてください。 症状がかなり進んだ高齢の人でも、適切な手術療法によって膝の痛みがなくなり、旅行にも行けるようになることが期待できます。 老後の生活をよりよいものにするためにも、膝の痛みで困ったときには専門医に相談することをお勧めします。
- 八木整形外科病院
- スポーツ医学・関節鏡センター長
安田 和則 先生 先生
膝の痛みに悩んでいる方...
その痛み解決できるかも
しれません!