軟骨がすり減ってしまう前に骨切り術 ~一生自分のひざで歩くために~

1. 無くなった軟骨は帰ってこない

関節が滑らかに動き、衝撃を吸収するためには軟骨が大切です。この軟骨は、ひとたび傷つくと元通りには再生しません。膝の軟骨がすり減って、歩いたり階段の昇り降りしたりするときに痛みがでてくる病気が変形性膝関節症です。軟骨のすり減るスピードは、次に説明するいくつかの要因によって、ひとそれぞれです。しかし、中には半年~1年の間にみるみるすり減っていく人もいます。痛み止めをのめば、まだ歩けるから大丈夫と言っているうちに軟骨が無くなってしまう人もいます。無くなった軟骨は帰ってきません。グルコサミン、ヒアルロン酸、コンドロイチンなどのサプリメントを飲んでも、いわゆる再生医療をやっても、失った軟骨は元通りにはならないのです。

2. 半月板は軟骨の守護神

それでは、どんな場合に軟骨が傷んでいくのでしょうか。もちろん、転んでガツンと膝をぶつけても軟骨は傷つきます。しかし、そのようなケガをしてなくても軟骨が傷んでいく人がいます。そのような人の中に、半月板が原因のことがあります。

半月板は、膝関節の内側と外側にそれぞれ1つずつあり、三日月型をして関節の縁を、ちょうど相撲の土俵のように取り囲んでいます。すねの骨(脛骨)の関節面は平らで、そこに丸い太ももの骨(大腿骨)の関節面が乗っかっているので、それを周りから包み込むようにして、支えているのが半月板です。大腿骨が関節の中で横ブレしないようにも役立っています。

ところが、半月板も年齢とともに弱くなってきます。生まれてからずっと長いこと関節の横ブレを支えながら軟骨を守り続けてきた半月板も、いつかちょっとした動きで「もうダメ」と、バツンと切れてしまうことがあります。転んだりしなくても、例えば、電車に遅れそうでちょっと駆け足をしたとき、階段を不意に下りるとき、ズキッと膝に痛みがはしり、それからどうも調子が悪くなったという話をよく聞きます。そういう人の膝をMRIでみてみると、半月板に傷が入っていることがあります。

いままで大腿骨の関節軟骨をやさしく、そして力強くささえていた半月板が割れてしまうと、関節内の横ブレが生じ、関節軟骨に強い力がかかり出すことで、軟骨のすり減りが始まります。

しかし、それでも人によって軟骨のすり減り方にスピードの違いがあります。半月板が割れても、そのうち痛みがとれて何年たっても大丈夫な人と、1年もたない人がいます。その違いは何なのでしょうか。

3. 骨のかたちが運

軟骨が早くすり減る人とすり減らない人との「差」は何なのか。これまで多くの研究がなされてきました。例えば、何百人もの人の膝のレントゲンとMRIを撮って、何年か後にもう一度調べてみる。すり減った人とすり減らなかった人との違いを見つける。そういう研究です。ある研究によると、前述の半月板損傷の有無に加えて、脛骨の関節面が内側に傾いていると、軟骨のすり減りが早いということが分かりました1)。新潟県のある町の住民を20年間追いかけて調べた研究でも同じ様に脛骨の関節面の傾きが軟骨のすり減りに関係していました2)。そのような骨の形をしている人はO脚になっていることも多いです。

1)          Palmer JS, et al. KSSTA 2020

2)          Higano Y, J Orthop Sci 2016

関節面の傾きを示したレントゲン

脛骨の骨軸に対する関節面の傾きを黄色で示しています。左の人は大きく傾いていますが、右の人は正常範囲です。

O脚の人のレントゲンと写真

黄色の線は、股関節と足首の真ん中を結んだ線で、歩行時に片脚で立ったときの荷重線になります。体重が膝の内側に偏ってかかることになります。

つまり、脛骨の関節面が内側に傾きすぎており、O脚である人は、歩く時つねに大腿骨の関節が内側にずれようとする力が働いており、内側の半月板がずっとそれを支えてくれていたのが、あるときブチッと半月板が切れ、内側の支えを失った大腿骨の横ブレがひどくなり、みるみるうちに内側の軟骨がすり減ってしまうのです。

 

4. 骨切り術は、傾きすぎた関節面をなおす手術

高位脛骨骨切り術は、この内側に傾きすぎている関節面を水平にもどす手術です。内側の半月板の支えを失って、大腿骨が内側にずれようとする動きを減らし、内側の関節軟骨への負担を減らすことで、軟骨のすり減りをくいとめます。横ブレの力が減って傷んだ半月板をグイグイ押す力も減るので、膝の痛みが軽くなります。軟骨がこれ以上すり減るのを食い止めるためにも理にかなった手術です。薬や注射にはその力はありません。

関節面が内側に傾いた人(左)に対する高位脛骨骨切り術後(右)のレントゲン

関節面の傾き(黄色線)が正常になっています。

5. 骨切り術は、軟骨が無くなる前にした方が治療成績がよい

レントゲンで関節の隙間がなくなったら手遅れかといえば、そんなことはありません。内側の軟骨がすり減ってしまっていても、骨切り術を行うことで、痛みは軽くなり、スポーツもできるくらいに回復する人はたくさんいます。そのため、もしもあなたのレントゲンで隙間がなくなっていてもあきらめることはありません。あまり変形が強いと人工関節の方が、治療成績が優れていることもありますが、専門医がちゃんと調べると骨切り術がよいかもしれません。

軟骨がすり減った人に行った骨切り術

術後も内側の隙間(黄色矢印)は狭いままですが、二人とも痛みがなくなり、とても喜んでいます。

ただ、骨切り術の治療成績を10年、20年と長い年月で比べると、もともと軟骨が残っていたうちに手術を受けた人と、すり減ってしまってから手術を受けた人とでは、差が出てきます。私達の研究では、軟骨が残っていた人は骨切り術の後15年たっても一人も再手術を受けていませんでしたが、骨切り術の時に軟骨が無くなっていた人は、15年たつと半分の人がその後に人工関節置換術を受けていました。もしもあなたが60歳台であるならば、90歳になっても自分の膝で元気にあるいていくためには、軟骨がすり減ってしまう前に骨切り術を受けた方がいいかもしれません。

6. O脚で、内側が痛いなら、軟骨が無くなってしまう前に

O脚の人がみな手術する必要はありません。痛みがなく、軟骨も半月板も大丈夫なら心配ありません。しかし、歩くと膝の内側が痛くなり、MRIで調べたら半月板や軟骨に傷があり、レントゲン撮ってみると関節面が強く内側に傾いた形をしていたら、痛み止めで我慢して軟骨がすり減っていくのを待つよりも、早いうちに骨の形を整えてあげる手術を受けた方が良いかもしれません。もちろん、手術の適否については、それだけで決まるわけではなく、病状と軟骨のすり減り、そして手術の必要性については専門医の診断が大切ですが、もしもその必要性があるならば、軟骨が無くなってしまう前がよいでしょう。失った軟骨は帰ってこないので。

コラムを書いた医師

  • 東京女子医科大学
  • 整形外科 教授・講座主任

岡崎 賢 先生 先生

関東

膝関節の知識

適応

略歴

1993年~

九州大学医学部 卒業

2000年~

九州大学大学院 修了 医学博士

2000年~

米国ワシントン大学整形外科 留学

2004年~

九州大学医学研究院 助手(次世代低侵襲治療学)

2007年~

九州大学病院 助教(整形外科)

2011年~

九州大学病院 講師(整形外科)

2016年~

九州大学大学院 医学研究院 准教授(整形外科学)

2017年~

東京女子医科大学 医学部 教授・講座主任(整形外科学)

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